<La Guitarra 編集後記> 2004年12月号
傘婦人
今年の後半は本当に雨が多くギターの鳴りが悪くイライラしましたが、私が雨降りで困っていることがもう一つあります。実は昔から本当によく傘をなくす癖があって、それがほとんど常軌を逸しているのです。駅で電車を待っていて電車が来たとたんに傘を持たずに乗ってしまう。傘を持って電車に乗ったまではよくても、降りるときに忘れてしまう。お店の傘立てにいれると帰りに忘れてしまう。と、こんなことはしょっちゅうで、もっとひどいのは途中で雨が上がった日などは、どこに傘を置き忘れてきたかすら忘れて、帰宅してやっと、そういえば今朝は傘を持って出かけたような気がする・・、ということすら多々あります。全く脳の忘れ物部署に異常があるとしか思えません。そんな状態ですので一年にいくつ傘を無くしているかわからないのですが、以前には逆のこんなこともありました。雨の日にスクール斜め向かいのコンビニに行って、店の外の傘立てに傘を入れ店内に入りました。その時持っていた傘は百円ショップで買った「バーバリーもどき傘」\200円也。そして買い物を済ませて「バーバリーもどき」をとって店の前で傘をさそうとしたところ、同じく店から出てきた初老の上品な物腰の婦人から声をかけられました。「その傘は私のですよ」「いえいえ間違いなく私のです」と私。すると傘立てを指さして「あなたのはあれですよ」。見ると確かによく似た傘がありますが近づいてよく見ると何と正真正銘本物「バーバリー」の傘(推定\17000也)です。さらにそのご婦人、「取っ手に傷が付いているのが証拠、自分のに間違いない」などといいます。私は頭の上に?を3つほど浮かべてどうしたものかと悩んでいましたが、この本物は店内にいるほかの客のものかもしれないと思い、いま店内にいる客が全員出るのを待ってみよう、と提案しました。待つこと数分、全員が出た後も「本物」は残りました。狐につままれたような気持ちのまま、押し切られるような形で「本物」が私の所有物になったのですが、未だにあれは何だったのか不思議でなりません。それで、その「バーバリー傘」ですが、やっぱりというかなんというか、ひと月ほど後にどこかの店の傘立てに忘れてきてしまいました。(そこに上品な物腰の婦人が現れ、「その傘は・・」、なんてね)(ほりい)
<La Guitarra 編集後記> 2004年11月号
紀宮様ご臨席コンサート
10月28日にみなとみらいホールで行われた宇賀神先生とのジョイントコンサートに、なんと紀宮殿下のご臨席を賜り、2時間の演奏をお聴き頂くという栄誉に浴しました。私たち出演者には2週間ほど前に紀宮様がお見えになられるという情報が伝えられたのですが、当日来て下さったお客様のほとんどは、まず会場周辺のものものしい警備を不審に思い、その後思いがけない紀宮様のお見えに驚いたのではないかと思います。終演後客席の拍手に見送られて退席された宮様は別室に移られ、我々はそちらでご挨拶するという段取りになっていました。私は一言ご挨拶させていただけるだけだと予想していたのですが、何とテーブルについてお茶などいただいて20分近くも今日の演奏についてや今回のチャリティーのテーマである地雷撲滅などの話をさせていただきました。「とても素晴らしい演奏を聴かせていただきありがとうございました」とのお言葉をいただき本当に光栄でした。それにしても、満員のみなとみらいホール、宮様のご臨席、それにともなうテレビや新聞の取材陣、そのステージの真ん中にたった一人(2部ではデュオでしたが)ですから緊張の要素がこれほどまで揃っていることはそんなにあるものではありません。しかしこういう時こそ以前にもこの欄に書いた「緊張の想像練習」が大切と思い、実践していました。これは(すくなくとも私には)本当に効果的で、事前に十分緊張状態のイメージトレーニングをした分、いざとなると「あらこんなもの?」または悪くても「まあ予想通り」という感じで開き直れます。おかげで今回も”あがる”ということもなく程良い緊張感の中、何とか無事にステージを終えることができました。
それはそうと、間近でお話しした紀宮様、幅広い話題に対し自分の言葉で落ち着いてお話しされ、周囲にも気を配られる非常に聡明でチャーミングな方との印象でした。(ほりい)
<La Guitarra 編集後記> 2004年10月号
上大岡ギタースクール快挙
先日行われた「スペインギター音楽コンクール」において、GSNトリオの大橋俊和、博和兄弟が主宰する上大岡ギタースクールの出場生徒が、第一位、第三位を受賞するという快挙を成し遂げました。第一位は大橋俊和先生のご子息、俊希さんが受賞、第三位は、俊和先生に師事し、現在上大岡ギタースクールの講師も務める多治川純一さんが受賞しました。スペインギター音楽コンクールは、日本スペインギター協会の主催により全国規模で行われているコンクールで、過去の入賞者には現在活躍中のギタリストも多数含まれている屈指のコンクールとして知られています。日本中から50名に及ぶ参加者が集まり、2度の予選を勝ち抜いてやっと本選に出場、そこでの上位入賞ということで相当の難関なのですが、さらに一つの教室からのダブル入賞ということですからこれはまさに快挙といえます。さらに上大岡ギタースクールからはベテラン、木村俊郎さんが11月20日、21日に国際規模で行われる、最難関の東京国際ギターコンクールにも2次予選進出を決めております。横浜ギタースクールからも昨年度は山本洋史さん、安宅寛高さんが、コンクール優勝、入賞を果たしており、近年のGSNトリオグループ教室の生徒の活躍は目覚ましいものがあり本当にうれしく思います。来年も当スクールから初出場組を含め、6〜7名がコンクールを目指して準備に入っております。どうぞ応援のほどよろしくお願いいたします。(ほりい)
<La Guitarra 編集後記> 2004年9月号
善行の証明
今年の夏は記録的な猛暑に加えて台風も当たり年のようで、台風上陸回数が過去最高という話も耳にします。秋の地方公演の時期はまさにその台風シーズンまっただ中となるのですが、過去十数年、一度も公演や移動が中止になったことがありません。この時期のコンサートだけでも回数にして200回以上、しかも台風の多い九州での公演も多数行っていることを考えると、いかに私の日頃のおこないが良いかが、お分かりいただけると思います。とはいえコンサートが中止になったことが、ないというだけで、あわやというケースは何度もありました。大型台風が近づいて近隣の学校では授業を切り上げ全員下校という中、その学校だけ時間を繰り上げて公演を強行したり、また演奏中にものすごい豪雨と雷に見舞われて、体育館の中は音がかき消されて何をやっているのだかほとんど分からない状態、などということもありました。もちろん移動の飛行機でも大変な目にあっています。昨年の九州公演の帰りの時も全員翌日のスケジュールがあるにもかかわらず佐賀空港からの便が台風で欠航になってしまいました。この時点で夕方5時。福岡空港ならまだ飛んでいる、との情報を聞いて急いで向かいました。臨時バスでJRの駅に行き、福岡行きの特急列車に飛び乗りました。これで何とか帰れる、とホッとしたのも束の間、強風のために電車は途中の小さな駅でストップ、いつ動き出すかわからないまま車内に閉じこめられました。このままではとうてい予定の便に間に合わないので車掌に掛け合ってドアを開けてもらい、急いで駅前のタクシー乗り場に向かいました。私たちの行動を見て他の乗客達も電車をあきらめて次から次へとタクシー乗り場に走ってきます。あっというまに小さな駅のタクシー乗り場に長蛇の列が出来てしまったわけですが、肝心なタクシーが居ません。30分近く待ってやっと1台が来てやっと先頭の私たちが乗れました。高速を飛ばして福岡空港に着いたときには予定の便はすでに発ったあとで、最終便ぎりぎりでした。最終便は満席だったのですが、キャンセル待ちでかろうじて搭乗することが出来ました。(きっと台風の中のフライトに恐れをなした人たちが多数キャンセルしたのでしょう。)というわけで、今月もまた九州公演に出かけてきますが、今回もまた私の日頃の善行が証明されることを願っています。(ほりい)
→このようなことを書いたとたんに台風直撃に遭遇、公演中止となり日頃の悪行が証明されてしまいました。(2004.11.3追記)
<La Guitarra 編集後記> 2004年7月号
GSNアクシデントワースト1
今回は5月号、GSNトリオの活動中に起こったアクシデントワースト3の続き。まずは、ワースト2ですが
「機材ケース積み忘れ事件」。秋田公演の初日、コンサート開始1時間前なって重要な音響機材が沢山はいっている機材ケースを横浜に忘れてきたことに気づいたものの後の祭り。あわや演奏不能、の大ピンチに3人の英知(たいしたものではないですが)を結集した末、奇跡的に演奏可能な最小限の状態まで持ち込んでなんとか無事に演奏を終えるという大アクシデントでした。この顛末はGSNトリオ旅報告に書いてあるのでこれくらいにして、いよいよ「ワースト1」です。都内のイベントの仕事に私の車で行くことになり、1台の車に音響機材+楽器を積んだうえにメンバー3人も乗り込み、寿司詰め状態で出発しました。無事演奏を終え、帰路の高速に入ったあたりから何となく車の調子がいつもと違うような気がしていました。そのうちメーター類の明かりがス〜と暗くなったり、ラジオがとぎれとぎれになったりというあたりで車の不調を確信しました。何とか高速を降りて緩い下り坂がしばらく続く道に出たところでついにエンジンがストップ。「エンジンが止まったー」「ウソー!」という叫びがあがりました。が、私の頭に浮かんだのは、緩い下り坂なので惰性でとりあえず安全な場所まで行ける、ということでした。そしてブレーキ操作のみでしばらく下って、ホッとしかけたとき、なんとブレーキが効かなくなってきました。そうです、エンジンが止まるとブレーキペダルの油圧が下がってブレーキは効かなくなるのです。ホッとして緊張がゆるんだタイミングだっただけに私の頭は真っ白になりました。(このままだと下り坂で加速して前の車に激突かガードレールに突っ込んで止まるかのどちらか・・)「ブ、ブレーキが効かない!」と叫ぶ私。と次の瞬間、助手席に座っていた大橋(兄)が何と、何と、走っている車から飛び降りるや車の前に回り込んで車を止めようとしはじめたのです。フロントガラスの前には両手を伸ばして足を踏ん張る大橋(兄)の姿!「もうだめだ」と目を背けたところに見えたのが「サイドブレーキ」、何で最初から思いつかないの、というのは後になっての話。こうして間一髪、事なきを得たわけですが、このときの私の目には、フロントガラスの向こうの大橋(兄)の胸に大きな赤い「S」の文字が浮かび上がっているのが見えました。(ほりい)
<La Guitarra 編集後記> 2004年5月号
GSN vs 泥棒
恒例の「BEST3シリーズ」、今回は「GSNトリオの演奏中、練習中、移動中など仕事中に起きたアクシデントベスト3」というかこれは「ワースト3」でしょうか。まずワースト3は「泥棒 vs GSN」。まだ私の自宅教室がマンションになる前、古い二階建ての家の一階にある教室でGSNの練習をしていたときのこと。練習が深夜まで続いてギターを弾いているより酒を飲んでいる時間の方が長くなってきた頃、にわかに外から数人の話し声が聞え、教室の窓に懐中電灯の光がゆらゆら当たるのが見えました。ただ事ではない気配に表に出てみると警官が数人います。「何かあったのですか」と問う私に、警官の一人が「泥棒が屋根伝いに逃げており、お宅の二階に逃げ込んだ可能性もあります」。そこでトリオで相談、とにかく二階の探索に行くことになりました。酔っぱらっているので恐怖が薄らいでいるとはいえ、先頭にたって階段を登るのは勇気がいります。3人で腰をかがめて数珠繋ぎになって階段の下まできたものの先頭を譲りあって3人でくるくる回ってしまい、先に進みません。酔ったオジサン3人の電車ゴッコのようで、おもわず吹き出しそうなのをこらえていると、さすが常人の2倍の筋力を持つ頼れるリーダー、大橋兄が野球のバットを片手に階段を踏み出しました。二番目は剣道の達人、大橋弟。私はというと家の主にもかかわらず、シンガリでへっぴりごしに懐中電灯。こういうときの緊張感というのは不思議とどこかにワクワク感が混ざっていて、恐怖で顔が痙っているのに笑いをこらえているような妙な感じです。忍び足で階段を上りきり、二階の部屋に誰もいないことが分かると一気に緊張が解け、こらえていた笑いの部分が噴出、「くせ者ー」「口ほどにもないやつ」などと訳の分からないことを言いながら教室に戻り延々と飲み続けたのでした。あららワースト3で字数が尽きてしまいました。続きはまたいずれということで。(ほりい)
<La Guitarra 編集後記> 2004年1月号
S氏の銘器とロマニちゃん
昨年暮れのある日、横浜ギタースクールのOBでスーパーアマチュアギタリストとして演奏を続けているS氏が、新たに購入したという楽器を携えて教室を訪ねてくれました。このギター、スペインの銘器のさらに年代物という貴重な楽器ですが、S氏が楽器店で一度試奏させてもらったが最後、その音色に取り憑かれてしまい、何が何でも手に入れたいという気持ちを抑えられなくなってしまい、数ヶ月悩んだ末に清水の舞台から真っ逆さま、晴れてS氏の所有することとなったそうです。この経緯と周囲からの評判は耳にしていたので、ぜひ一度弾かせてもらいたいと思っていたところでした。そしてその日弾かせてもらったギターですが、これがまさに期待通り、これまで弾いたギターの中でも最上級の素晴らしい楽器でした。とにかく「これぞスペインの香り」といった音質、さらに弾き手のタッチに素早く反応してイメージ通りの音色を出してくれるのにはびっくりしました。こういうギターを弾いていると本当に時間のたつのを忘れて弾き続けてしまうのですが、さらにその後、その場にあったもう一台の素敵なギター、私の愛器「ロマニちゃん」(毎度気持ち悪くてスミマセン)をケースから出して贅沢な弾き比べを楽しみました。どちらのギターも揺るぎない評価をされている伝統的な銘器ですが、その音色は驚くほどタイプが違います。S氏も私の「ロマニちゃん」を弾き始めるや、自分の楽器と対極ともいえる音色に引き込まれていった様子で、しばし至福の表情で弾き続けていました。これを読んでいる皆さんの中には、「ギターの音色ってそんなに違いがあるの?」と思っている人もいると思います。私だってやっと少し「違いの分かる男」になってきた程度なのでその疑問はよく分かります。以前に観た映画の一場面で、成金のイヤな男に「このワインは1本○○万円もする○○年物のシャトー○○です」などと嘘をついて安ワインを出して、成金男が「んー、この芳醇な香りはさすがシャトー○○ですね」なんていうのを陰で笑う、というのがありましたが、ギターもワインも価値を決めるのは人間の感覚、という部分は同じだけに、考えさせられるものがありました。まあ、そもそもギターの場合はその音色を論じる以前にそれを引き出す技術を身につけるまでもが大変なのですから全く奥の深い世界ですよね。(ほりい)

Yoshinori Horii